医師


T
 前田啓一外科医が、硬いソファの寝心地の悪さで眼を覚ましたのは、まだ日も昇っていない時間であった。携帯電話の「着信一件」の小さなライトが、仄かに部屋を照らしていた。
 前田は寝起きにもかかわらず、間もなく眼が冴えた。外科医のような昼も夜もわからないような仕事に就いたことに伴う、一種の"職業病"であろうか。現代社会における医者不足の問題は、病にかかる患者が一番の犠牲者ではあるけれども、病を治す医師の労働環境も劣悪化してきているのだ。
 そういう理由から、いつ何時でも前田は神経を昂ぶらせていなくてはならないのだが、今日はそれが特に顕著であった。
 前田はゆっくりと上体を起こした。起き上がる時に腰が痛くなる――もうそんな歳だ、と前田は思う。若い頃はソファの上でも平気で安眠ができたのに、今はもう、そうはいかない。
 腰の悲鳴を聞きながら、傍にあったスリッパを履いてよたよたと暗闇を歩き、壁のスイッチを押す。
 携帯電話のライトは途端に目立たなくなり、部屋中央に備えられた電灯の強い光が、前田の眼球を襲った。部屋にある大きな窓は、カーテンすら閉められていない。真っ暗な闇にうっすらと緑色の茂みが見え隠れしていた。
 携帯電話を手にとった。着信一件――それは、自宅からだった。
 妻である佳代子がかけてきたものだろう。
 前田は医師としては、真面目で、患者にも親切で、医療の腕も良いので、もちろん周囲から高い評価を得ていた。患者に好かれるのはもちろん、同僚にも好意的な目で見られた。しかし、自宅での評価はそれとは対照的だった。妻の佳代子には頭が上がらない。子供はだんだんと父母を避けるようになっていった。
 佳代子とは、二十二年前に結婚した。当時は、奥ゆかしく優しい妻――であったと記憶している。しかし、結婚生活が月日を重ねていく中で、妻の性格というのは次第に変わっていった。
 今となっては、前田啓一は妻の絶対王政の中で虐げられる国民である。もはや革命を起こそうとする気力すらない。これも、全てを仕事に捧げた"代償"というものであった。
 前田はインスタントコーヒーをカップにいれ、机にあるポットのお湯を注いだ。長い医務室生活の中で、非常に馴染みのある匂いが漂ってきた。携帯電話をちらりと見る。もう一回かかってきたら、その時に出よう、と心に決め、窓を眺めながらコーヒーを啜った。
 どのくらいが経っただろうか。大きな窓の暗闇が、次第に黒みがとれて深い青色へと変わった。


U
「前田先生」
 医局での事務処理を終え、前田がようやくボールペンを机に転がした時、研修医の真崎が声をかけてきた。真崎――真崎俊太郎は、前田が監督を担当する若い研修生である。重そうな分厚いカルテを抱きしめながら、若々しくはにかんだような笑みを見せた。
「研修のうちは大変だな」
 前田は労うように、まだピカピカの真新しい白衣を纏った若者に笑みを向けた。
 真崎は苦笑した。それが、うかつに「はい」とも言えない彼なりの、精一杯の答えだったのだろう。もっとも、前田は研修医の返答など、微塵にも気にしていない様子だったが。
 研修医は、やや大袈裟に目を見開かせて、何か思いついたかのように「あっ」と軽く声をあげた。
「そういえば、川崎先生見ていませんか?」
 前田はボールペンを胸ポケットに差し込むと、一息ついた後に頭を振って、
「いいや、見かけていないな」
「そうですか……」
「医局にはいないようだから、回診にまわってるのかもよ」
 川崎外科医は、前田の同僚であり、私的な関係においても無二の関係であった。前田のほうが川崎より三つ年上ではあるが、研修医時代から苦楽を共にしてきた。酒を飲みながら「関口のバカヤロウ」などと上司の愚痴を言い合ったりと、あまり大きな声で言えないこともしていたのであった。
 前述の通り、前田は既婚者であるが、川崎のほうは今年で三十路も終盤に差し迫っているというのに、結婚をせず、未だに一人でマンション暮らしをしていた。独身の自由さは、妻に縛られっぱなしの前田が羨むところであった。前田が女房への不満を川崎に愚痴をこぼす度に、家に誰かがいてくれることはいいことだと、タバコを吹かしながら、しきりに慰めてくれたことを思い出す。
 前田が見るに、真崎は、監督医である前田より川崎のほうを尊敬し、また信頼しているようだった。確かにあいつは警戒心を無くすようなオーラがあるからな、と前田は心の中で納得せざるをえない。
「いえ、その――タイムカードも押されてないんです」
 前田の眉がぴくっと動いた。
「休み?」
「わかりません。欠勤とは縁がなさそうな人に見えましたし。でも……」
 そう言って、真崎は重そうなカルテを片手で持ち、空いた手の親指の爪を噛んだ。これは彼なりの悩んだ際に現れる癖なのであろう。
 前田はあえて軽く、笑い流すようにして、
「まあ……学生ではないんだし、サボりってことはないだろうな。そんなに心配せずとも、上に連絡は行ってるだろうさ」
 研修医のがっちりした肩に手を置いた。そういえば、高校時代はラグビー部に所属していたと聞いていたことを、思い出した。
「失礼します」
 真崎は、カルテを持ったまま丁寧にお辞儀をすると、病棟行きの廊下を足早に歩いていった。その姿をぼんやりと眺めていると、携帯のバイブレーションが急に前田の腿をじんじんと響かせた。
 着信――自宅。
 彼は実に深い溜息をついて、通話ボタンに手をかけた。


V
 前田は案の定怒られた。昨夜は帰れそうに無いことは伝えておいたのだが、問題は早朝の電話に出なかったことだったのだ。 "虐げられた国民"は、"国王"の甲高い声をなるべく耳に届かせないために、通話音量を最小にした。
 前田は携帯を片手に「ごめん、ごめん」と、書類整理をしているナースに向かって頭を下げた。
 ナースは桃色の清純そうな唇の端を吊り上げ、くすりと笑って医局から出て行く。(妻の電話から)助けて欲しい、とは流石に前田も言えなかった。
 ピッ。
 電子音によって長く苦しい通話は終了を告げた。前田は投げ出すように携帯を机に置くと、椅子に凭れ掛かった。
(そういえば――)
 顎に手を添えて感じた、ザラザラとした感触。髭を剃ってなかったことを前田は思い出した。電動髭剃りを片手に、洗面台へと向かう。洗面台の鏡に映った自分。若い頃のような肌の張りも無く、短い髪の毛にはあちらこちらに銀色が散らばっている。
「もう、俺も若くは無いな」
 誰もいない室内で、ぽつりと前田は呟いた。
 それに比べて川崎はなぜあそこまで若さを保っていられるのか――前田は友人でありながら、常々そんな疑問を抱いていた。いつでもはつらつとして、老いと同時に閉じがちな社交性も、十分なほど持っている。事実、前田はそんな川崎に憧れを抱いていた。
 ちょうど電動髭剃りのスイッチを入れたときだっただろうか。部屋のドアの開く音がした。
 前田は、先程のナースが戻ってきたものかと思った。そして何気なしに、鏡の反射を利用して、自分の背にあるドアを眺め見た。
 ナースではない。ナースキャップの代わりに簾のようなハゲが見え、白い肌と整った柳眉の代わりに、しわくちゃな肌と険しく皺寄せた眉間。
 前田と川崎、そして多数の外科医の怨敵、関口忠信外科部長だった。
「おい」
「はい、どうしました」
 前田はわざと髭剃りの最中であることを示すかのように、鏡でじっと自分の髭を見ながら返事をした。関口の大袈裟な足音が聞こえ――そして、鏡の脇隅で、どさっとソファに座ったのが見えた。
「川崎から連絡いってないか」
「そうですねえ」
「どうなんだ」
 前田が曖昧な生返事で返すと、関口はやや語調を強めた。
「連絡は入っていませんよ。大体、休むんでしたらそちらに連絡するでしょうに」
「休むなど、そういう問題ではない。これは事件だ」
 電動髭剃りが止まった。前田はそろりと振り返って、見たくも無い外科部長の顔を直接目に入れた。
 関口はソファに座ったまま前田を見上げて、視線を固めたまま告げた。
「川崎が死んだんだよ」


W
 その後、病院は奇妙なほどに通常に運営された。
 いや、一人の外科医が死んで、人手が足りなくなった病院は穴を埋めるべく、さらに慌しく、忙しく、活気づいたのではないか。もちろんショックを受けた医師やナースはいることだろう。しかし、そういった感情は、この苛烈な職場環境においては、後回しにするほかない。
 川崎の死因は、緊急会議の中で、病死としか知らされなかった。医者が多く存在するこの場に、そのような説明はあまりにもお間抜けな話だと、多くの医者は首を傾げた。実は自殺だったとか、実は殺されてしまったとか、根も葉もない噂が立つのも無理のない話だった。
 その頃、前田は午後に予定されていたオペに取り組んでいた。執刀医は、前田と川崎、それから前田の一年後輩の桜木医師。研修医の真崎の四人の筈だったが、川崎が急死したため、医局でも評判はいまいちの関口外科部長が、急遽自ら御出ましした。
 手術中のランプが消え、四人は各々手術室から退出した。
「前田」
「はい、なんでしょうか先生」
 前田は、自分よりも幾らか背の低い関口を見下ろして、彼の呼びかけに返事をした。
「今回の縫合はやけに手間がかかったな」
 冗談じゃない。と前田は関口の言葉に、あくまでも心の中で、反抗した。傷口の縫合を等閑にすると、オペ後に傷口が開いて余計に悪化を招く。単調な作業ではあるが重要だと、前田は長年の経験からそう判断していた。
「川崎のことで集中できないようなら、今後は執刀を任せられんぞ」
 前田は拳を握った。この歳になって後先を考えずに怒りをぶつけようとは考えていないが、それでも医者としての名誉を傷つけられたと、心の中で沸き立つものを感じた。
「それで腕が鈍るようなら、医師など二十年以上は務まりません」
 ふん、と関口の鼻が鳴った。口をもごもごさせ――まるで、歯に何かが詰まっているかのような不快そうな表情を前田に向けて、唸るように
「今回のことは、警察も目を光らせているようだ」
 前田の胸は高鳴った。――が、無言を保ってあくまでも平然を装い、首を傾げてみせた。
「見たところ外傷は無いが、もしかしたら他殺かも知れんと警察は言っておったな」
「殺された、ということですか?」
 前田は無意識のうちに、殺された。という言葉を強めた。思いもかけずに、強調した前田の言葉は廊下に響き渡ったので、関口は前田を睨みつけた。
「解剖してみないとわからんとのことだ」
 関口はそれだけを言い終えると、前田の真正面に身体を向き直して、胸ポケットにしまいこんでいた前田のボールペンを手に取り、それで前田の顔を指した。
「このことは誰にも言うな。妙な可能性の話で、病院の評判が損なわれては敵わんからな」
 前田は小さく頷くと、反抗的にも、関口から自分のボールペンを奪い取った。そして、あえて関口とは別の方向の西廊下を歩いて医務室へ向かってみせた。
 そんな態度の前田に向かって(その後ろ姿ではあるが)、チッと大きな舌打ちをした後、辺りをぐるりと見渡した。
「真崎くん」
 関口は低い声で、不運にも傍にいた背の高い青年の名を呼んだ。彼の次の矛先は、真崎研修医に向けられたようである。


X
 前田は売店でハムサンドイッチとあんぱん、缶コーヒーを袋に詰めてもらい、夕暮れ時――循環器科の待合室に備わっている固めのソファに腰かけた。
 大きな窓からブラインド越しに強い斜陽の光が入り込み、誰もいない待合室に、より一層の孤独感が生じた。
 コツ、コツ――。
 サンドイッチを二齧りほどした時、靴底が床を叩く音が高らかに響いた。誰かが来た。前田はすぐに感じ取った。
 それは初老の男だった。うっすらと白髪が目立つ坊主頭で、日焼けで黒々とした顔には皺が全体に濃く刻まれていた。しかし表情は決して険しくなどなく、むしろ人の良さそうなオジサンといった雰囲気を醸し出している。彼は、実にゆったりとした足取りで、前田の座る長椅子に腰かけた。
 本来は待合室での飲食が禁じられているために、前田はちょっとばかりの嫌な汗をかき、サンドイッチの具を思わず落としそうになってしまった。つまらないことを指摘するような男でもないようだった。しかし、悪戯が見つかった子供のような仕草で、前田は袋の中にサンドイッチを入れて、理由もなく背筋を伸ばした。
「前田先生、でいらっしゃる?」
 突然、隣の男が声を発した。それはその姿から予想した声よりも、甲高い声だった。
 前田は、「はい」と一言だけ男に放った。素っ気なかっただろうかと、前田は後に後悔してしまう。しかし、男は前田の素振りも気にせず、にっこりと微笑みながら会釈をした。
「失礼。私、警視庁の人間でしてね」
 前田はぎょっとした。びっくり箱を開けた気分になった。
 男が、コートの裏ポケットから警察手帳を前田に見せ、そしてそれを開いて見せた。確かに男の顔写真が(引き締まった表情のせいか、若い感じではあったが)そこにあった。
 その下に書かれた名前を、前田は見逃さなかった。
 警視庁捜査一課、大岩剛大。
「おおいわ、ごうだいさん?」
 前田の言葉に、大岩は苦笑した。
「いえ、ごうだいではなくたけひろです。これで、たけひろと読むんです。すみません、紛らわしくて」
 そう訂正すると、大岩は何か申し訳ない様子で、坊主頭をポリポリと掻いた。前田のほうも何かとてつもない間違いをした思いで、目を見開き、すみませんと何度も頭を下げた。
「お医者さんは忙しそうですね。それは昼飯ですか?」
 前田はちらりと後ろのビニール袋を見ると、ニッコリと笑顔を崩さない大岩を見つめ、
「ええ、今日はいつもより忙しくて。本来はきちんと正午に頂けるんですがね」
「勤務時間が定まらんのは、お医者さんもこっちの商売も一緒ですな」
 大岩は引くようにして笑った。一方、前田は、刑事がここにいることに違和感を覚えて、楽観的に笑うことなどできはしなかったが、それでも笑う仕草だけは努力した。
 前田は、得体の知れない緊張感に包まれながら、コホンと大きく咳払いをして、
「それで、何の用ですか?」
 刑事がわざわざ此処に出向いたことを、前田は大岩に聞いた。もっとも、心当たりがないわけではなかった。川崎医師の突然死――おそらくはこのことだと、前田は確信していた。
「どうやら病院内でも話はされているようですが、一人の医師が自宅のマンションで死亡しておりました。名前は川崎――」
「殺されたんですか?」
 前田は間髪入れずに、大岩に訪ねた。大岩はきょとんと眼を見開いたが、やがてククッと笑い
「外傷はありませんが、今のところは何とも言えませんなあ。ただ、自然死体という線で考えると、ちょっと奇妙でね。それで我々警察が動いているわけです」
「奇妙?」
「ええ
 突如、響き渡る高音。――病院のチャイムが鳴った。
 大岩はチャイムが終わるのを待ち、鐘の高音の余韻が終わる前に話を再開した。
「それで、川崎さんと一番に親交があったのは、前田先生であると伺いまして」
「ええ、それは……そうですね。長年信頼し合ってきました友人です」
「なるほど」
 坊主頭を前田に向けて、大岩は手帳に何かを手早く書いた。ふん、と小さく鼻を鳴らして、唇に指を当てる。これがこの刑事の癖なのだろうと、前田はちらちらと観察した。
「なにか、川崎さんの死に心当たりは?」
 来たか、と前田は思った。よくドラマで見かけるシーンだ。医務室のテレビで何度見たか分からない。前田は今自分が立たされている状況を、妙に客観的な視点で見られた。
 川崎――親友がまさに突然いなくなったというのに、深い悲しみと同じくらいの平静さもある。自分はこの上なく冷淡な男なのではないかと、前田は自嘲したい気分に駆られた。
「そんなのは自分が知りたいことです」
 前田は強い口調で、大岩刑事に言ってみせた。
「心中はお察しします」
 刑事はゆっくりと頭を下げた。前田は追い打ちをかけるように、大岩に言葉を浴びせる。
「川崎は、人に恨まれるようなやつではありませんでした」
「そうみたいですな。病院内のナースさんやお医者さんは、口を揃えてそう言っておりました。しかし……」
 刑事の言葉が止まった。そしてすくっと腰をあげて、黒々とした手帳をポケットにしまいこむと、
「関口忠信さんとは特別仲が悪かったみたいですね」
 座り込んだままの医師に一礼をして、相変わらずゆっくりゆっくりと廊下を歩いて行った。


Y
 自分以外誰もいない医務室にて、ようやく勤務を終えた真崎は、今まさにパソコンの電源を消し、背もたれ付き椅子にて伸びをしていた。
 そんな時、不意に目に入ったのは、川崎医師の整理された机だった。先輩の前田の机はごちゃごちゃっとしているだけに、それはまさに対照的だ。
 正直に打ち明けてしまえば、真崎にとって、先輩としての尊敬に値するのは川崎のほうである。もちろん、腕は一流である前田に対する憧れもあるが、それ以上に川崎に対するものが強かった。
 それだけに川崎が死んだという知らせは、若い研修医の心をどれだけ深く傷つけただろうか。
 真崎は、もう真っ黒になってしまった大窓にカーテンを被せると、悪いとは思いつつ、川崎の机にゆっくりと歩んだ。
「川崎先生の幽霊に怒られてしまうかも知れないな」
 すみません、と呟きながら両手を合わせた後、引き出しに手をかけようとする。
 ガラッと引き出しの大きな音が医務室に響いた。
「ああっ」
 真崎は心臓を掴まれた思いがした。それは机の引き出し全面に映った。真黒な紙の中にうっすら見える白骨。
 それは一枚のレントゲン写真だった。
「これは……胸部の」
 真崎はそれを取り出すと、医務室を照らす照明に向かって、かざしてみた。
 どこを見ても名前が記されていない無名のレントゲン写真――。
「おい! どうした!」
 不意に大きな声がした。気づかぬ間に医務室に足を踏み入れていたのは、関口だった。真崎は突然の叱咤に、背筋がピンと伸びる思いがした。それと同時にふっと握力が消え失せ、不覚にもそのレントゲン写真を床に落とした。
「うん。なんだこれは」
 関口はいつもの偉ぶった歩き方でレントゲンに歩み寄ると、それを照明にかざして見つめた。
「誰のものだ」
「わかりません。川崎先生の机から出てきたものですが」
 しばらく関口はレントゲンを遠ざけたり近づけたりしながら、目をかっと見開いてそれを観察していた。
 次第に彼の手は震えていき、その震えが小さな体に行き渡るのに、然程時間はかからなかった。若い研修医は、突然の上司の震えを怪訝そうに見つめながら、
「関口先生」
「まさか、そんな……いや……」
「関口先生!」
 関口は、真崎への返事もせずにレントゲンを机に置くと、入ってきた威勢がまるで消え失せたかのように、声が弱弱しくなり、髪を掻き毟りながら医務室を出て行った。
 真崎はレントゲンをまた手に取ると、ブラインドのかけ忘れた大きな窓を眺め見た。それは漆黒に支配されており、月光もまたその漆黒の中に息を潜めていた。
「川崎先生」
 彼は、自身にとって偉大な外科医を思い、そしてその名を呼んだ。
 あの人はもう戻ってこない。殺人か、病死か――定かではない。しかし、それがもし殺人であったならば、自分がその犯人を殺してやる。
 そうだ。殺してやる。
 若く青い研修中の医師は、医者にあるべき慈悲の心を捨ててでも、医師の道から外れようとも、川崎の復讐を成し遂げると、暗闇に克明に映る自身の姿に誓った。
 真崎はふと、川崎の机にあった写真を見た。相変わらず人の良さそうな顔だと思った。川崎の隣には前田がいた。これはかなり前の写真なのだろう。ふたりとも若々しい。
 同僚である川崎を失った前田の悲しみと、自分の悲しみは一体どれだけ重なったものがあるのだろう。共に生きた時間も違えば、自ずと交友の経験も違ってくる。川崎は、前田と同じように、自分には接しない。いつまでたっても川崎は、真崎を子供扱いした。
 それに対する苛立ちは、もちろんあった。親に対する自立を願う子のように。しかし、こんな突然に自立を迫られようとは、誰が思っただろうか。
 真崎はそのまま床に崩れ落ち、あくまでも厳格に沈黙を守りゆく夜の医務室に、嗚咽を高らかに響かせた。


Z
「ふうん、妙だな」
 うっすらと白い毛が目立つ坊主頭の刑事は、死亡した川崎の部屋をうろうろと徘徊した。彼は怪訝そうに、そこに漂う違和感の正体を探っていた。
 川崎の部屋は、医師という多忙な職業の割には、余計なものがないさっぱりとした印象を受けた。ベランダの戸を開けているために、冷たい風がベージュのカーテンごしに室内を冷ましていく。室内の、クリーニング済みのビニールにかかった白衣が、その持ち主の喪失を嘆くように、ゆっくりと揺れていた。
 もう一人のスーツをしっかりと着こなした刑事が、大岩に近づいた。それは大岩の部下の坂下警部補であった。坂下はT**大学法学部出身であり、国家一種試験に合格して警部補となった、将来が保証されたエリートである。一方大岩は地道にヒラ刑事から気付きあげてきた実績があっての、警部という身分であった。
「大岩さん、やはり死亡の原因は"持病の発作による突然死"だそうです」
「うん、やっぱりな」
 既にそれは知っていると言わんばかりに、大岩は頷いて見せた。
「――しかし、誰かいた形跡はある」
「誰かが……? 川崎本人以外の指紋は検出されませんでしたが」
 大岩は、極力相手を貶めるようにはせずに笑った。大岩にとって、部下がキャリア組で自分を追い越そうが、そんなことは興味の範囲外だった。
「人が残すのは指紋だけじゃない」
「じゃあ、いったいどこにそんな形跡があるんです?」
 高学歴の若造は、自己愛が強いだけに思わずムッと上司を睨みつけた。自己愛――いや、自分に対する絶対的な自信が坂下警部補には備わっていた。いつでも周りからは尊敬され、称えられ、その果てにおいて、この場に存在していた。それだけに、上司の言葉にいちいち反感をもたずにはおられなかったのだ。
「だいたい、誰かが一緒にいたんなら、どうして誰にも連絡しなかったんですか」
 流石に自信たっぷりだけあって、相変わらずいいところを突く。大岩は坂下のそういうところは純粋な気持ちで認めていた。
「連絡できなかったのかも知れないな。できるだけ遠くに逃げたかったんだろう」
「だから、どうして――」
「死んだ川崎とは、隠さねばならない関係。そういうことかな」
 その言葉の意味することは、さすがに堅牢な坂下の頭の中にも響いた。
 大岩は、やや考え込む部下の頭をぽんと柔らかく叩いて、川崎が使っていたベッドのほうへと近づいた。川崎はベッドの上で毛布を被って死んでいた。まるで眠っているようだった、と発見者が語っていた。
「君は死んだ川崎の死体を見たか?」
「見ました」
「何か気がつかなかったかい?」
 上司の問いに坂下は言葉を詰まらせる。そんな部下の行き場のないような心情を察してか、大岩は彼に笑みを与えて、内ポケットより写真を取り出した。
 それは死体の写真の幾枚かであった。
 坂下は、名誉を挽回しようと、なんとか上司が違和感を覚えるポイントを見つけようと熱心になった。しかし、それは意外にもあっけなく見つかった。
「ボタンをかけ間違えている……?」
部下の自信のなさそうな答えに、満面の笑みを大岩は浮かべて、
「そのとおり」
 坂下に合格印を押した。
「でも、パジャマのボタンをかけ間違えることくらいは、誰だって……」
「どうかな。川崎は几帳面な性格だ。自宅の机の中もきちんと書類は整理されているし、病院の机の中も同じだった。それにこの部屋の空間はなんとも小ざっぱりとしていて、逆に俺なんかは物足りなく感じてしまうが。それからもうひとつ妙なことがあってね。襟がきちんと折れていないんだよ。中途半端に中に入れてしまっているんだ」
 大岩の指摘に、坂下は短い驚嘆の声を上げた。
「これは、つまり……」
「そう、誰かが無理矢理パジャマを着させたんじゃないかな。つまり――行為の最中で、突然死した川崎を、どうにか孤独のうちに死んだということにしたかった」
 大岩は、どうかな、と聞いているように首を傾げてみせた。
「そうなると、怪しくなるのは第一発見者ですか」
「ああ、第一発見者か……。名前は何て言ったかな」
 大岩は頭を掻いて短い毛をジョリジョリと奏でた。その間に、坂下は手帳で発見者の名前を確認する。
「真崎俊太郎。死んだ川崎"美琴"――"彼女"の所属する病院の研修医のようです」
 かすかにガタガタという音と揺れが室内に響いた。それは、今日の最終電車が線路を駆けるものであった。大岩には、その音すら耳に入っていないかのようである。
「しかし、あの若者がなぜ逃げる必要があるんだろう」
 大岩はうなりながら室内を徘徊した。ふと、彼の目に飛び込んだのは川崎のデスク――。その本棚に立ててある一冊の本に惹きつけられ、ペラペラとめくってみた。
「真崎と川崎は付き合っていた、というのはどうですか」
 大岩の背に、考え込んでいた坂下はやっと声を上げる。
「それでは逃げる理由にならないだろう。真崎は研修医として独身の身だし、川崎も仕事一途な人間として独り身を決め込んでいた。付き合ったとしてもなにも隠すようなことじゃない」
「じゃあ――」
 坂下がそう言った瞬間、大岩はめくっていた"読み物"をパタンと音を立ててしめた。
「俺にはわかったよ。これに答えは書いてあった」
 大岩は、悪戯を仕掛けた時の子供のような、楽しそうな笑みを部下に向ける。そして、車のキーをポケットの中でチャラチャラと弄り、玄関へと急いだ。部下の坂下はというと、上司である大岩に振り回されることに溜息をこぼし、腕時計に視線を落とした。
 ちょうど、午前十二時であった。

[
 不意に、部屋の中でメロディが鳴った。メロディはひどく愉しそうに、まるで己をせせら笑うかの如く、部屋中を響き渡った。
 それは携帯電話の着信のものであった。いよいよか――そう思った。いや、確信した。
 確信と同時に、何か妙な"覚悟"のようなものを己に感じた。
やっと裁かれる時がくる。断罪の時だ。
 しかし、不思議なことに、これからの不安や恐怖など一切感じなかった。一方でそれを望む心があったのかも知れない。隠していてはいけない。隠してはいられない、と。
 極めて冷静に、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「もしもし、私警視庁の大岩と申します。前田――前田啓一さんのお電話でよろしいですか」
「はい」
「川崎美琴さんの死について、ちょっとお話がありまして電話させて頂きました。お疲れのところ申し訳ありません」
「私が殺しました」
 何かに縋りたかったのだろう。それが己の罪を裁く相手であろうとも。だから、間髪をいれずにそう言った。受話器の向こう側の相手は、不意打ちを食らったかのように黙り込んだ。こんな急な展開を、あの刑事は今まで経験してきただろうか。しかも、こんな声しか伝わらない機器で、我ながら拙い告白であると思う。
「俺が、殺した」
 実に晴れやかな気持ちだった。何でもいい。何かに心の内を告白することが、どれだけ自分の救いになるか――今まででは到底理解し得ないこの快感を、今は一身に受けることができた。
「落ち着いてください。前田さん」
 何を言うのだろう。落ち着いている。落ち着いているとも。落ち着いた上での告白である。さあ、死刑台に連れて行ってくれ。命を救う役目を担いながらも、命を突き落としてしまったこの囚人を、一思いに裁いてくれ。
「川崎美琴は殺されたんじゃない。あれは、病気の発作による突然死です。とにかく、今日お会いしたいのでなんとか時間を作ってください。それで都合のいい時間が出来ましたら連絡ください。いいですね」
 驚いた。刑事も嘘をつく。大方、逃がさずにおびき出すための策なのだろう。しかし、そんな策にも乗ってやろうと思った。どうせ、捕まろうとしていたのだから、いっそのこと策に見事引っかかってやろうじゃないか。携帯を放り投げて、胸ポケットのたばこを一本、口に咥えた。
「美琴」
 初めは単なる同僚だった。お互いまだ医学部を出たばかりの新人で、美琴は女だったけれども、男に対するような接し方で十分間に合った。いつでも人懐こい笑顔を浮かべ、気も合ったこともあって、気がつけば長い付き合いになっていた。しかし、その時点で美琴に対する気持ちは、"ただの"親友であり同僚に対するものであった。
 その関係が変わってきたのは、妻――佳代子との間に亀裂が入ってきたことがきっかけだったのかも知れない。次第に、妻の待つ家に帰るより、美琴と医務室でコーヒーを飲んでいる方が、ずっと居心地が良くなってきた。そして、ほんの一瞬の気の迷いが、罪の道へと突き動かした。
 酒の勢いを借りたのだろうか。今思い出されるのは、あの時の温かなベッドの感触と、決してみることの無かった美琴の"女"の顔だった。その関係を、美琴自身がどう思っていたのかはわからない。だが、おそらく美琴も俺も、こんな一時の欲に支配された関係など、長続きするはずもないことはわかっていた、はずだ。
 しかし、それは思いの外、俺達を――いや、俺を依存させたのだ。
 美琴との最後の日。あの時も俺達は、美琴の部屋でお互いを依存しあった。そこで彼女の口から出た言葉。彼女の表情。今でも、それが脳裏に焼き付いて離れない。
「私を、殺して」
 いつでも笑顔を絶やさなかった美琴の、俺が見た唯一の涙だった。
「啓一の手で。お願いだから」
 彼女は手を俺の手にそっと添わせて、強く言葉を発した。
 その言葉は、今でも心に突き刺さり、抜け落ちることはない。まるで自分の身体の中身がすっかり抜け落ちた、皮だけの存在になったかのように、床に崩れ落ちた。
「美琴……美琴……」
 自分でも情けないと馬鹿にしたくなるような、弱弱しい声。この誰もいない医務室に、誰も入ってこないことを切実に祈りながら、俺は自分を呪いきった。


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 H19.12/23
 疲れた。色々なことが起こりすぎて、何から片付けていいのか分からない。何年も医者をやっていたけど、こんなに大変なことはきっと一生のうちに一回くらいしかないだろう。正直言って、多忙というよりも心が苦しい。啓一とあんな関係になってしまったことだ。ずっと同僚で友達だと思っていたが、啓一が突然「男」という存在に見えた。恥ずかしい話だが、怖かった。そして、一線を越えてしまったことに後悔は募るばかりだ。まず、これは佳代子さんに対する裏切りであると思う。家にお邪魔すれば、いつも笑顔で出迎えてくださった佳代子さん。私はもしかしたら、彼女に甘え過ぎたのかも知れない。啓一はいつも不満をこぼしていたけれど、あんなに出来た奥さんはいないのではないだろうか。
けれども、こんな関係になってしまった以上は、どう接していいかわからない。少なくとも、平静を装う自信などない。佳代子さんに泣き崩れたい。すべてを告白して謝りたい。でも、それは許されないことなのだ。社会的にも、倫理的にも。
 私が不安を抱えているのはもうひとつ。私の身体に腫瘍が見つかった。これは助からない。長年医師をやっていた私が断言するのだから、死は確実なのだ。末期の病気を宣告された患者さんの気持ちが今わかる。けれども、患者さんには家族の方を介して伝えることになっているが、私の場合は"不意"に"事実"を突き付けられたのだ。病気に関して、医者の目は誤魔化せない。それは嘘でもなんでもなく、ただただ"事実"だったのだ。
 これを誰に伝えたらいいのだろう。啓一だろうか。それとも、関口さんだろうか。若い真崎くんに伝えるだなんて考えられない。
 やはり、それも自分で抱えていくしかない。全てを隠し持って果てていければ、もしかしたら幸せな人生なのかも知れない。
 もし私が死んだら、この文章を読まれる日が来るのだろうか。もしそうなる前に、早く捨ててしまわなければ。見つかってしまったら、啓一にも佳代子さんにも、それから私のような医師にでも慕ってくれる真崎くんにも迷惑だ。机の中のレントゲン写真も、早く捨ててしまわなければならない。
 医師になって、幸せだった。皆に逢えて、幸せだった。
 最後に名前でも記して、今日は終わりにしよう。

                              川崎 美琴


「ご覧になりましたか」
 雲無き高い空が見える屋上。大岩は茶色のコートを風に靡かせ、煙草をふかしながら、前田に渡している"死者の日記"に視線を置いた。前田の眼は、未だ文面を往復しているようだった。
「ここに書かれているように、川崎さんの遺体には悪性腫瘍が見つかりました。彼女はもう助からない状態だったということも、裏付けは取れております」
「しかし……」
前田は、風にかき消されそうな声量で言った。
「しかし、あいつは確かに殺してと言いました。俺の手を自分の首元に導いて……」
「首を締めましたか」
「……そのとおりです」
 大岩は、あの日――初めて逢った時と同じような笑みを浮かべる。この男は表情豊かではあるが、度を超えた変化はない。全てが計算しつくされた表情であるかのような錯覚すら覚える。警察官としての長年の経験がその技を成したのだろう。
「それは違うんですなあ。あなたはおそらく、"自分が殺したと思い込んでいるだけ"です。あなたは彼女を殺さなかった。彼女はあの夜――病死しただけなんです。それはね。死体を見てピンと来たんですよ。絞殺特有の顔の鬱血もなかったし、腫れ上がってもいなかった。ただ眠っているように死んでいたんです。なんでしたら死体の写真を見せてもいいのですけど、やはりちょっと酷でしょうから」
 前田は安心する気にはなれなかった。むしろ、自分に対しての罪悪感が沸々と湧き上がるのみであった。
(俺に……)
(俺に何ができたのだろう……。全ては俺の、自己満足に過ぎなかった。結果的にあいつの優しさに依存して、ただ苦しめただけだった)
 大岩は、前田をちらりと見ると、鼻の頭を少し掻いてみせた。
「私は、川崎さんもあなたを愛していたようにみえます。ただ、あなたの奥さんに対しては罪悪感を持っていたんでしょうけどね。きっと殺してと言ったのは、あなたに殺されることが、病気で死ぬよりも彼女の望むものだったのでしょう。あなたが彼女に依存していたのと同じように、彼女もまたあなたに依存していた。決して嫌いだったわけじゃない」
 前田の体は動かない。ただ、白衣だけが風に靡き、布が波立った。
「気休めではありません。まあ、刑事の勘ではありますけどね。ついでに言っておきますと、彼女の日記に、日記を捨てなければと書いていました。でも、実際は捨てずに、デスクに入れていたわけです。それはなぜなんだろうかと、私は考えました。彼女は几帳面な性格だったのに、ずっと残したままにしておくでしょうか。まして、あなたやあなたの奥さんに迷惑をかけると思っていたのなら、尚更です」
 大岩の咥えた煙草は、かなり短くなった。「失礼」と小さく断ると、内ポケットから携帯灰皿を取り出して、その吸殻を押し付けた。
「私はこう考えてるんですよ。彼女は"全く逆のことを考えていたんじゃないか"とね。つまり、この日記も"本当はあなたに読んでほしかった"ってことです。自分がこれだけ苦しんだということを、あなたもまた苦しむことを承知の上で、洗いざらい告白したかったんです。それほど、彼女にとってあなたは救いだった」
 前田は大岩をついに見た。大岩は、どうですか。と言わんばかりに目を丸くしている。前田の眼は空虚に満ちていた。その空虚感は、それだけ自分を慕い、また自分を考えてくれた川崎美琴を失ったことからきたものに、違いはなかった。
「大体、日記の中に名前が書いてあるっていうのも、考えてみれば不思議なものです。でも、これは自分の日記なんだ、と誰かに示したかったとしたら合点はいきます」
 暫し、沈黙が流れる。
 しかし完全な沈黙ではない。ゆるやかな風の音と、下から聞こえる微かな都会の喧騒が、辺りを支配した。
「刑事さん。私は――どういう罪に問われるのでしょうか」
「死体遺棄罪になるでしょう。殺人、または損壊罪ではないので、罪自体はそれほど重いものではありません。罰金くらいで済みます」
「そう、ですか」
 前田は、何か釈然としない思いがした。確かに"結果として"人殺しはしていなかったが、それでも川崎を翻弄させて苦しめた罪を、金を払うだけで償うことなど出来るだろうか。もっと大きな刑罰がふさわしいのではないか――そう、己で自覚していた。
「では、また後に伺います」
 やけに簡単な挨拶をして、丸坊主の刑事は歩き去って行った。
 前田は、その空間にて、独りになったことを確認すると、ごろりと屋上の床に寝転がった。深い、深い、飲み込まれそうな蒼い空間が視界に広がっていた。
(ん……) 
 不意に、聞き馴染んだメロディが、風の音混じりに胸ポケットより耳に入り込む。胸ポケットに入った携帯を取って見ると、着信のライトが光り、画面には「自宅」と書かれていた。
(佳代子……)
 前田啓一は、着信が切れぬ間に通話ボタンを押して、すべてを告白した。
 何が一番良いのか、今となっては分からない。ただ――前田にとって、それが一番の償いのような気がした。


――了――




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