ある夏の日の出来事






 "あの日"の椎名由美の欠席を不審に思う人間など、彼女の通う学校には、おそらく誰もいなかっただろう。そう言い切れるまでに、由美には休みがちの女子というイメージが、纏わり付いていた。
 私立四方川学園高等部の三年五組に属していた彼女は、いわゆる文学少女であり、授業の合間の休み時間は、専ら図書館に篭り切っていた。性格は明るいほうではなく、また人付き合いも苦手で、他人と会話をする――という光景を、周りの人間は殆ど見たことがないと言う。それが、おそらくは"いじめ"の標的となり得る要因だったのかも知れない。
 その日、由美の自室はきっちりと施錠されており、由美の母親も入ることは出来なかった。しかし、母親はそれを奇妙に思うことは無かったらしい。由美は普段からそうやって部屋に閉じこもり、一日中読書に耽っていることが多かったと言うのだ。母親はそんな娘の姿を察して、風邪と偽り、欠席を学校に報告することが半ば常となりかけていた。
 そんな常が、実は異常であったと判明したのは、その日の黄昏時の事だった。
 あまりに長い間自室に篭っていた娘――。母親のふとした気がかりは、やがて大きな不安へと化していく。しかし、母親一人の力で扉を破る事も出来ず、止むを得ずに勤務中の夫に連絡した。
「由美! 由美!」
 娘に呼びかける父親の大きな声は、近所の人間にも聞こえるほどであった。しかし、全く室内からの応答は無く、ただ父親の叫びのみが近所へと響き渡るだけであった。
 父親と母親の不安は一気に高まっていく。そしてそれを嘲笑するが如く、陽は完全に堕ち、空は闇が支配した。近所の野次馬が次第に窓を開けて、椎名家の様子を見始める。その野次馬らの一人は、外から見た由美の部屋は真っ暗であったと、後に警察に証言した。
 父親が扉を破ろうとした。しかし、家を新築した際に、防犯の為、扉や窓を頑丈に設計した事が裏目に出たのである。身体を幾度となくぶつけても、扉は平然として、子を求める親達を妨げた。

 母親の不安が頂点へと達し、ついに警察に連絡を試みる。それは二十時四十五分の出来事だった。それから間もなく、けたたましいサイレンの音が響き渡り、家の中へと乗り込んだ警察官は、由美の父母同伴で、問題の部屋へと向かった。警察官は密室を開放するために、特殊な工具を使用して、扉の鍵を無理矢理壊した。もちろん、父母の同意があってのことである。窓ガラスを割って、そこから侵入するという方法は、娘を傷つけてしまうのではないかという父母の心配から、即刻取り下げられた。
 ようやく、扉は開いた。異常なまでの熱気と臭気が、その隙間から浴びせられる。
 由美はそこに存在していた。しかし、"由美の足は浮いていたのである"。
 母親が傍の照明のスイッチに手を伸ばす。カチッという音と共に、光が由美の全てを照らし出した。
 由美の首は、天井のフックにかけられた縄跳びの縄が食い込まれており、由美の顔は蒼白で、舌をだらしなく出しながら、苦悶の表情で父母と警察官を睨みつけていた。長い髪で目元にうっすらと影が出来てはいるが、飛び出そうなほどに大きく見開かれた、白目の中の一点の黒目は、ある種の不気味さを醸し出す。
 その部屋の異常なまでに高い温度は、おそらく色の濃いカーテンで日中ずっと窓を閉ざしていた為であろう。そして、この暑さと共に漂う臭気は、由美の股間を見れば明らかであった。首吊りによる縊死(いし)は、糞尿を垂れ流すことも珍しくは無い。由美もその典型の一人であったということだ。
「由美!」
 父親がここでようやく声をあげる。彼は飛びつくように、宙に浮いた愛娘の脚を抱きしめた。
「どうして、こんな……っ!」
 しかし――最早娘は人間ではなく、ただの宙吊りの物体でしかなかった。一拍遅れて入った警察官は、机の上に置いてあった白い封筒に目をやる。
 自殺であれば、その中身は――そんな警察官の予想は、大きな形で裏切られる。
 父母が泣き喚きながら、由美の身体を揺さぶる間に、封筒の封を開けて、中に入った白い紙を広げた。

 ――『呪』

 その文字が直接脳にぶつかった時、思わず警察官の一人が低い悲鳴をあげ、手を振ってその手紙を床に落とした。まるで、気色の悪い虫がもぞもぞと手に這っていたかのように。
「刑事さん」
 警察官の奇妙な態度に、父母もそれを恐る恐る覗き見た。
 やはり、その手紙に書かれているのは、遺書でも辞世の句でもない。ただ一文字の、しかしとても大きな『呪』。これには父母も、ただ息を呑んだ。
 赤いインクを付けた絵筆かなにかで、書かれたのだろう。それを真っ赤な血に喩えたとしても、決して不自然ではなく、むしろ父母も警察官も、状況が状況であるだけに、最初は血だと認識してしまった。
 母親は娘の無残な姿に、がたがたと震え出した。何度も何度も娘を呼ぶ声の中にも、震えが宿っているのを感じる。しかし、かつては椎名由美と呼ばれていたこの"物体"は、ただ首を軸にして揺れるばかり。ぶらりぶらあり――母の声に呼応することも無い。
 こうして、二〇〇三年九月三日の新潟県新潟市中央区松木町の夜は、けたたましいパトカーのサイレンがその静寂を打ち消したのであった。




「まだ若いってのに、可哀想だな」
 新潟県警の坂部刑事は、ハンカチで口を押さえながら、床に下ろされた椎名由美の遺体を眺めた。五十半ばと年季の入った刑事は、いかにも気難しそうな風貌で、由美の死体を睨んだかと思えば、もはや髪の毛など殆ど絶滅したと言っていいくらいの、自らの頭を撫で上げる。
「椎名由美さん、十八歳。私立四方山学園高等部三年――おそらく、自殺か」
「間違いないようですね」
 坂部に反応したのは、遺体を軸として対に座り込んでいた、柏木刑事だった。柏木は白い手袋を嵌め込んだ手で、縄跳びの縄がしっかりと食い込んだ由美の喉元に触れる。遺体の近くには排泄物の悪臭が漂い、柏木はその強烈な刺激臭に、目をパチパチと何度も瞬いていた。
 坂部は少し遺体から離れ、窓の外から見える景色を眺める。このような閑静な住宅街に不似合いなパトカーの列。朝に比べれば、大分野次馬も減ったように思われる。人通りの少ないその道路は、新潟――日本海側の都市特有の、灰色の重たい空がとてもよく合っていた。
「原因は何でしょうな」
 柏木が言った。
 柏木刑事は、坂部とほぼ同年齢と言ってもいい。新潟県警本部の刑事部捜査第一課に属する刑事である。一方、坂部は新潟市中央区を所轄とする新潟中央警察署の刑事だ。本部の刑事と所轄署の刑事――そういう差はあるものの、二人は若い頃から組して、様々な犯罪を追ってきた為に、他のどんな刑事と組むよりも息は合っている。
 柏木も坂部と同じく、頭の毛のほうは絶滅の危機に瀕していた。しかし、こちらは若い頃から坊主頭で通って来たので、白髪も薄毛もあまり目立たない。
 坂部は、例の封筒を一瞥した。
 真っ赤な『呪』の文字。それは、今までに起きた自殺事件の前例には無いものだった。
「ドラマや映画の見過ぎじゃねぇか」
 柏木は頷く。そして、彼は窓際の坂部に向かって、
「しかし、死ぬしかないと思い悩んでる時に書いたって事は、相当何かに恨みがあるのかも知れませんな」
「――とすると」坂部は、溜息混じりに遺体を見た。

「いじめ、か」

 柏木もこれに同意する。そして、坂部の露骨な溜息に思わず苦笑した。
「仮にいじめだとしても、学校はまず認めないだろうな」
 そう言うと坂部は、その場に立っていた若い刑事に声をかけた。
「遺体を鑑識課に回せ。それから、親にまず事情を聞き込んでくれ」
 坂部の声は大きい。現場ではまるで怒鳴っているかのように聞こえる。その声量に若い新人刑事は大抵怯えてしまうが、慣れてしまえば気にならなくなる。柏木が良い例だった。
「お互い、定年までは休む暇なしですねえ」
 そんな柏木の言葉に、大袈裟に坂部は肩を竦めた。




 四日連続の椎名由美の欠席は、教室中で話題になった。「大きな病気にかかった」「交通事故にあった」「不登校になった」など様々な憶測が机から机に飛び交う。そして、「自殺した」というのも、憶測の例外ではなかった。
 岸谷亜樹は、だらしなく口を開いて生あくびをしながら、一限目の授業に使うテキストとノートを取り出し机に置いた。
 そんな時、前の席の女子は彼女に話しかけた。
「ねえ、アキ。ユミちゃん今日も学校来てないみたいよ」
「あ、本当だ」
 亜樹は眠たそうに目をごしごし擦りながら、誰も居ない椎名由美の席を見る。
 まただ――。亜樹は眉を顰めながら思った。
「何かあったんじゃないのかなあ」
「考えすぎだと思うけど。ほら、椎名さんって休み多いし」
 前の席の友人に、亜樹は微笑んでみせた。しかし内心では、何か只ならぬ予感を感じた。それにはひとつの理由があった。――いじめである。
 由美の机は、持ち主が不在だと言うのに、とても華やかだった。そしてその華やかさが、この状況下では残酷なものへと化す。学校の裏庭に生えているものから拝借しただろう、沢山の花がそのまま机の上に置かれていた。
 由美が欠席した日にはいつも、こうして誰かが机に花を置いては、クスクスと忍び笑いが教室中に響き渡る。汚いやり口だ、と亜樹は思う。
 しかし、亜樹は由美へ救いの手を差し伸べてはやれなかった。それは己の保身の為である。 つまり、由美を救うことによって、風向きが亜樹のほうへと変わることが何より恐ろしかったのだ。そしてそれは亜樹だけではない。おそらく、ほぼ大多数の人間は、自分の身が可愛い為にいじめを放置しておくのである。
 そんな、学級の誰もが認知していたいじめ――その被害者が椎名由美である以上は、この長期の欠席もそれと関係があるのではないか。
 亜樹の嫌な予感は、そこから来ていた。
「亜樹」
 遠くから耳に入った低い声。それは、城崎茜のものだった。彼女こそが、椎名由美をいじめている集団の中心に立っている人間であった。人をからかう時に上げる高らかな笑い声が特徴的なのだが、常日頃はこのように低い声調で事を済ます。
「あんた、椎名から連絡入ってないわけ?」
 亜樹の胸はどくんと揺らいだ。小さく首を振って、「ないよ」とだけ答える。
 茜もまた由美の連続欠席に、何かあったのではないかという疑いを持ち始めたに違いない。城崎の言葉に焦りと苛立ちが生じているのを、亜樹は確かに感じた。
 先生が入室した。
 教室の喧騒はすっと消えて無くなり、誰もが先生に視線を注ぐ。先生が木製の教壇を踏みしめる音が、ギシギシと室内に響くだけであった。
「先生」
 先頭の席に入る女子は、大きな声で言った。
「椎名さんは、今日も休みなんですか?」
 先生は出席簿を机上に置き、急に咳払いを始める。何か重大なことを言い始める合図――おそらく、学級の全員がそう認識しただろう。

「椎名は……椎名由美は、亡くなった」

「え?」
 先頭の女子が思わず聞き返した。しかし、先生は同じ言葉を――「亡くなった」を繰り返しただけだった。
 耳が痛くなるほどの沈黙。
 亜樹は心臓が爆発してしまいそうに思うほど、鼓動が高鳴るのを感じる。いつか来ると思っていた。そして、その日がやってきた。率直に言えば、そういう感想しか抱かなかった。
 あっけない。人の命も。そしてそれを平然と受け入れてしまう、自分自身の冷酷な心も。
「なんで亡くなったんですか?」
「自殺、らしい」
 自殺という非日常の現象自体に驚愕する者はいただろう。しかし、由美が自殺をする――この事態に、一体何人の人間が意外に思っただろうか。亜樹は周囲を眺め見た。皆が各々の机を睨んでいる。
 由美の死。由美の自殺。
 その原因は、学級の人間ならば全て承知のことであった。先生は静かにチョークを取ると、まだ昨日のままであった日付を、今日の日付に書き換える。
 九月五日。金曜日。
 カッカッとチョークを叩きつける軽い音が、亜樹の心へと突き刺さった。きっと、これは私だけじゃない。亜樹はそう思う。
「どうして、どうして……」
 その場で泣き始める女子がいた。そして、それにつられて泣き始める女子も生まれ、そしてその女子がまた周囲に影響し――と次第に泣き声は重なり、連鎖反応とも言うべきか、殆どの生徒が涙を流す事態になった。
 みんな、許しを乞うているのだ。
 亜樹はじっと目を瞑って、教室内のその泣き声にそっと耳を澄ました。ついつい遊び心でいじめに参加してしまった連中。そして亜樹を含め、いじめを見て見ぬふりをしてきた傍観者の連中。それら全てが、今、浅はかにも贖罪をしている――そんな風に、亜樹には感じられた。
 先生は、両手を叩いた。
「そんな風に泣いたら、椎名も可哀想だろう」
 場の安っぽい悲しみを、彼は聖職者として精一杯宥める。
 亜樹は、そっと斜め後ろに座っていた茜を見た。彼女もまた周りと同じように、涙を流す仕草をしているのだろうか、と気になったからであった。
 亜樹の予想は裏切られた。しかし、どこかでそういう予想もしていたのであったが。
 彼女は――城崎茜は全くの無表情であった。その表情には、後悔も悲しみも無い。ただじっと先生の目を見据えるばかりである。
 もっとも、城崎茜は元からそういう人間であった。先生や目上の人間の前では、常に仮面を被る。素直で、成績も優秀で、校則に従順な優等生。そんなペルソナを茜は常に用意しているのである。
「一限目は数学か。つらいだろうがお前らは受験生だ。精一杯授業受けろよ」
 そう言って、担任の先生は出て行った。そしてそれと入れ替わりに数学の先生が教室に入る。事情はもう把握しているのだろう。いつもの陽気さなど全く見られなかった。




 新潟中央警察署の長椅子に、坂部は座っていた。お気に入りのセブンスターを咥え、煙たそうに目を細めながら、手に持っている写真を眺める。
 椎名由美――彼女の、学生証に貼付された顔写真であった。
「ああ、此処にいたんですか」
 飲みかけの缶コーヒーを持ちながら、柏木は近づいてきた。そして彼も、低い唸り声を上げて長椅子に座る。長年の無理が祟り腰を痛めている柏木には、腰を下ろしたり上げたりするだけでも一苦労であった。
「その娘ですか。まだ若いのにねえ。まあ、最近は自殺事件も念入りに裏づけしないと、とやかく言われる時代となりましたからな」
 ぐびっと缶コーヒーを傾けて、喉に流し込む。柏木は続けた。
「何か進展がありましたか?」
 坂部は煙草を、長椅子の脇にあった灰皿に押し付ける。そして、声の声量を若干調節しながら、
「遺体解剖の結果だ。この嬢ちゃん、妊娠してたよ」
「そうですか」
 柏木は頷いた。コーヒーを一滴残らず飲み干して、頭の無いゴミ箱の中に投げ捨てる。
「今のところ、考えられるのは二つだな。まずは男女関係か」
「妊娠が発覚したことで男に逃げられ、それに絶望して――ということですかな」
 坂部は柏木を指差して、無言のままに頷く。同意をする際の一種の癖である。
「それで、もう一つは?」
「いじめが過度に発展して、暴行によって妊娠させられてしまう。それを苦に自殺。俺はこっちの方が可能性は高いと思うが」
「何とも言えませんな。ただ、そっちとなると私共も本格的に動かんと」
 柏木は眉をぐっと顰めた。この手の件に対しては、責任を請け負うことを徹底的に嫌う学校。それを相手に捜査をすると思うと、かなりやりづらい部分があるのだろう。
「我々としては、可能性の低い前者を願いたいですな」
「俺は別にいいがね。どうせ老いぼれて、前線での活動を退役させられそうなんだ」
 髪のほとんど無い己の頭を撫でながら、坂部が苦笑を浮かべた。
「学校問題は首突っ込むと、後片付けが大変ですよ」
 柏木は一言だけ残し、重い腰をようやく起こして、長い廊下を歩いていった。
 柏木の大きな背中が、次第に小さくなっていく。そんな光景を見る中で、坂部はふとした事に気づいた。いや、気づいたと言うよりも、思い出したと言うべきだろうか。
 首を吊っていた椎名由美の死体――あれに纏わりつく"違和感"。その正体が何なのかを今はっきりと坂部は認識できた。

「顔だ」

 坂部の声は、思いの外大きかった為、容易く柏木の耳に入る。
「どうしたんですか」
「普通、"首吊りによって自殺した死体の表情というのは、もっと安らかじゃないか"」
 坂部の問いかけに、ああ、と柏木は頷く。
「私も専門家じゃないから迂闊な事は言えませんがね。首吊りは頚動脈洞を圧迫させるから、意識だけを喪失させるなら十秒と持ちません。高いところから落下するように首を吊ったなら、落下のエネルギーで頚椎を傷つけてしまうので、それよりももっと早い――おそらく即意識を失ってしまうでしょう。首吊り死体の表情が、安らかなのはその為ですな」
「さすが本部の人間。俺にはさっぱりだ」
 直感と経験で物を喋る坂部にとって、それに対する医学的論拠など聞いても、首を傾げるばかりである。坂部は感心しながらも続けた。
「ということは、だ。あの嬢ちゃんは"どうしてあんな苦しそうな表情をしていたのか"という問題も出てくるわけだ」
「首の締めどころが、悪かったんじゃないでしょうかね」
「そういう事もありうるのか」
 坂部の問いに、柏木は困ったように首を傾げた。
「まあ、あとで専門家に聞いてみましょう。しかし、それが判ったところで何がどう動きますかな? 部屋の扉も窓は、きっちりと施錠されていた。"自殺以外にはありえんでしょう"」
「それはそうだが。しかし、妙だと思ってね」
 坂部の言葉に、柏木の眉が顰められた。
「映画や小説の中でなければ、自殺には違いない。これは断言できます。しかし、椎名由美の自殺には、不可解な点が多いのも確かですな」
「うん。あの『呪』の文字も、その一つだな」
 面倒なことになりそうだ。おそらく、二人の思惑はそれで合致したことだろう。暫しの沈黙が、まだ煙草の煙が抜けきっていない廊下に流れた。




 昼食、昼休みを終え、五時間目のチャイムが鳴り始めた。朝に比べれば大分重い雰囲気も薄まったように、亜樹には思えた。朝散々泣き喚いていたある女子などは、今は友達とのおしゃべりで、お腹を抱えて笑っている。そんなものなのか、と亜樹は思う。次第に由美の存在が教室から薄まっていくのが、彼女には痛々しく感じられた。
 休み時間終了のチャイムの時点で、生徒が揃わないことは決して珍しいことではない。必ず最低四、五人の生徒は、先生と同時に――もしくはそれよりも遅れて入ってくる。
 亜樹はそれらの机を順々に見回す。
 揃わない生徒と言うのは、亜樹にも、おそらくほとんどの生徒にも、大体見当がついていた。
(山之辺卓弥、鈴木亮一……)
 やはり居ないのは、あの男子集団だった。山野辺卓弥、鈴木亮一、佐々木俊平、石崎健。この四人もまた、椎名由美をいじめていた人間であった。おそらく、どこかで煙草でも吸っているのだろう。教室に入ってくる際のあの集団は、いつもヤニ臭くてたまらなかった。
 亜樹の視点は、教室中をぐるぐると回った。
 一人、二人、三人、四人――。
(やっぱりいないのは、あの四人……)
 四人。その認識は、やがて有り得ない事だと気づく。そんな筈は無い。亜樹は己の眼球がおかしくなってしまったものかと疑った。
 そう、四人である筈が無いのだ。由美がいないのだから。
(由美の席――)
 亜樹は、もうこの世にいない人間の席を、そっと見つめた。
 
 いた。

 皆と同じ制服を身につけ、皆と同じく教科書を机に並べて、彼女は座っていた。
「由美……っ!?」
 亜樹の叫びは声となって表れたのだろうか。それは、亜樹自身も分からなかった。由美は亜樹のほうを見つめて、不気味なほど屈託無く微笑む。由美は元々、健康状態も良いものではなく、ほとんど外に出ない為に青白い顔をしていた。その蒼白さが今は一層深みを増している。
 その笑みは、一体何を意味しているのか。由美は死んだのではなかったのか。
 あらゆる疑問が亜樹の心の中にぶつかる。そして、それは亜樹を混乱させるに至って十分すぎるものであった。
「ちょっと、どうしたのよ」
 前に座っている女子が、亜樹の眼前に掌を動かして、意識がちゃんと備わっているか確認した。まるで夢から覚めたようにハッと振り返った亜樹は、その女子の肩を掴んで、
「ねえっ、あそこっ! あそこに由美がいる! どうしてなのっ!? 由美は死んだんじゃ……っ!?」
 女子の目は丸くなった。
 そして、おそるおそる由美の席を見る。――誰もいない。悪ふざけで置かれていた花も、流石に今は取り除かれ、まるで由美という存在が最初から無かったかのごとく、空っぽの机ばかりがそこに在った。
「……大丈夫? 何なら、保健室に行ったほうが」
 心配そうな女子の顔がぐらりと揺れたように、亜樹は感じた。しかしそれは錯覚に過ぎなかった。亜樹の顔は見る見る血の気が引いて、真っ青になっていく。
「ううん、大丈――」
 亜樹はゆるりと首を振って、自分が見たもの、すなわち由美は幻覚の類に過ぎなかったということを、無理矢理自分の頭に刷り込ませる。友人の女子に向かって、微かに笑みを作りかけた、その時――亜樹は椅子と共に倒れこんだ。
 ガタンッという大きな音。誰もが、亜樹に注目する。

(亜樹――!)
   (岸谷さん――っ!)

 ひんやりとした床に押し付けられた頬の熱は一挙に冷め、周りの亜樹の名を呼ぶ声が、彼女の十分に働かぬ脳内で幾重にも反芻した。
 ぼんやりとした意識とは対照的な、激しい動悸。そして彼女の熱い瞼の裏側には、確かに由美の姿が――口の端を吊り上げるように笑む由美の姿が、あった。

 


 何の予兆も無く、亜樹の目は開いた。
 白い天井。ベージュのカーテン。クーラーから発せられる冷えた空気。そこは保健室だった。一体どれくらいの間、眠っていたのだろう。亜樹は考える。しかし、起きたばかりで覚醒しきっていない脳は、未だ思考という作業に乗り切れずにいた。
 どうしても働かない頭に苛立ち、彼女は頭を抱える。そこに感じたぬるりとした感触。額には沢山の汗が浮かんでいた。
「あら、起きたのね」
 亜樹の傍にいたのは、養護教諭の松原千里だった。
「先生」
「急に倒れたって聞いたけど……貧血かしら。でも、由美ちゃんが亡くなったんだから、ショックを受けるのも無理ないわね」
 松原は腕を組んで、ベッドで横になった亜樹を眺める。亜樹は、常日頃保健室に通っている女子だった。松原養護教諭は、彼女にとって、学業成績、受験、人間関係――何もかもを気軽に相談できる唯一の年配者であった。親や他の教師のように、叱咤や激励をすることもなく、ただ微笑みながら頷き、喉が渇いてきた頃にはお茶も出してくれる。もちろん亜樹は、親や教師のすることが優しさでないとは思わない。しかし松原のように、ただ聞くだけという行為に専心するというのも、優しさなのではないかと思う。
 由美もまた、保健室によく通う人間の一人だった。他の教師と違って、「由美ちゃん」と呼ぶのもそういった付き合いからきている。
「ありがとう、先生。もう大丈夫。教室に戻るから――」
「待って」
 亜樹がベッドから起き上がり、端に腰かけた時、松原は彼女を制した。
「まだ、教室には戻らないほうがいいと思うわ」
「どうして?」
 亜樹は松原の顔を見上げながら、首を傾げる。養護教諭は何かに迷っているのか、眉を顰めて腕を組みなおした。
 暫しの沈黙の後、ようやく松原は口を開いた。
「また、亡くなったの」
「え?」
「山野辺くん、鈴木くん、佐々木くん、石崎くん――あなたのクラスの男子四人が、亡くなったのよ」
「亡くなった……?」
 亜樹はぼんやりと聞き返す。まだ、言葉の意味を頭が受け付けていないという感じだった。しかし、次第に亜樹は理解した。――死んだのだ。
 由美に続いて、"由美をいじめていたあの連中"も。
 そんなことが現実にありえるのだろうか、と亜樹は疑う。山之辺、鈴木、佐々木、石崎のグループ全員が、亜樹の意識の無い間に死んだというのだ。
「なんで?」
「今、学校に警察が来てるわ。まだ詳しいことは私達も聞いてないの」
 松原はそう言って、自分の仕事机へと戻った。

 しばらく松原と亜樹は、向かい合ってコーヒーを啜っていた。何を話すわけでもなく、ただただ時間を消費していくばかりのものであった。
 それに歯止めをかけたのは、外からドアをノックする音だった。
「どうぞ」
 松原は少し声を張り上げて、外にいるであろう人間に入室を促す。
 背が高く、頭の薄い男がそこにいた。
「すいません、失礼致します。なにか頭痛薬とかお持ちでないですか」
「はあ……」
 松原は頷くと、頭痛薬とコップ一杯の水を用意し始めた。この男は先生ではない。容姿から亜樹は簡単に判断がついた。とするならば、答えは明らかである。
「刑事さんですか?」
 椅子に座っていた亜樹は、その男を見上げて訊ねる。男はゆっくりと頷いた。
「坂部といいます。君は?」
「岸谷亜樹といいます。あの、本当に山之辺達が死んだんですか?」
 坂部刑事は大きく咳払いをした。「君は、彼らのクラスメイトか何かかい?」
 亜樹は頷く。あまり山之辺達のような柄の悪い集団と、繋がりを持っていることを話したくはなかったが、相手は刑事である。嘘をついたら逮捕されてしまうのでは、と自然と亜樹の背筋が伸びた。
「殺されたよ」
 松原から渡された頭痛薬を「どうも」と言って受け取り、ごくりと飲み下す。
「殺された?」
「今はもう使われていない体育館倉庫で死体は発見された。それが、あまりにも凄惨な状況でね。相当な恨みを持ったやつの仕業だろう」
「どんな殺され方を?」
 亜樹は、ぐいと身を乗り出して刑事を見つめる。面倒なことになった。刑事の表情は明らかにそんな内心を映し出していた。坂部はじろりと亜樹を睨みつけると、
「それに答える代わりに、君にも俺の質問に答えてもらうとするが、いいかな?」
「わかりました」
 自分の知っていることならば、と条件付で亜樹は頷く。彼女にとっては何も後ろめたいことなどない。大体、四人組のことで知っていることなど、塵一つあるかくらいだろう。
「よし、それじゃあ答えよう。彼らはバラバラになって殺されていた。それも鋭利な刃物で切られていたというわけではない。引き千切られていた――そんな感じだったな」
 亜樹の背筋にはぞわっと冷たいものが伝った。
「まるで小型爆弾が、あそこで破裂したんじゃないかと疑うくらいだったよ。血と肉と――凄まじいものだった」
「刑事さん」
 松原が坂部刑事を睨んだ。おそらく、生徒の精神状態を考慮してのものだろう。亜樹は嫌な汗が吹き出てくるのを感じた。死ねば皆善人であるとは思わないものの、そんな凄惨な死に方をしなければならなかった四人の嫌な連中を、彼女は気の毒に思う。
「ああ、失礼。少し刺激が強すぎたかも知れんな。――じゃ、今度は俺が聞く番だ。椎名由美の件なんだが」
 亜樹は目を丸くした。皺を深めながら此方を睨みつける刑事の視線が、とても恐ろしいものに感じたのと、この刑事が由美のことまで知っていたという事に対する、驚きによるものであった。
「椎名由美をいじめていた連中っていうのは、今回殺された奴らなんだな?」
「はい」
「皆はどうだった?」
「皆?」
「つまり、彼女を皆でいじめていたのかい。由美に仲間とか、いなかったのかな?」
 亜樹は考えた。由美に仲間がいたか――しかし、いくら考えても親しくしていた人間など見当たらなかった。強いて言うならば、ここにいる養護教諭の松原くらいか。
「いいえ。皆が皆いじめてたわけじゃなくて、いじめてた人達は少数でした。でも、静かな性格でしたから、周りと話している姿はあまり見たことがありません」
「ふうん」
 坂部刑事はうっすらと生えた顎鬚を撫でながら、天井を見つめる。
「よし、ありがとう。大変参考になった。――先生も、頭痛薬ありがとうございました。大分楽になりましたよ」
 刑事は口元だけを緩めて、保健室から颯爽と出て行った。頭痛薬は口実で、本当は生徒に人間関係の内情を聞きたかっただけなのではないか、と亜樹は勘繰りたくなりもした。




 亜樹が教室に戻った際、大きな溜息と微かな笑い声が聞こえた気がした。由美が自殺し、男子四人組が全員殺され――今度は亜樹が死んでしまったのではないかと、クラス全員が思ったのだろう。溜息は安堵の意味を含んでいた。確かに今日という日は異常だと、亜樹も思う。死が間近に存在しているような――そんな重苦しい空気が漂っている。
 先生はいない。おそらく、今度のことがあって授業どころではないのだろう。
 席に座ると、前の席の女子がすぐに亜樹に話しかけた。
「ねえねえ、大変だったのよ。アキがいない間」
「わかってる。刑事さんに聞いたから」
 そう言いながら、亜樹は微かな誇らしさを心の中に感じた。こんな状況になっているのに、我ながら呑気だなと彼女は自嘲する。
「何だかさ、城崎さんも様子が可笑しいみたい」
「どうして?」
「私の想像なんだけど、ユミちゃんも男子のアホ連中も死んだってことはさ、あの"いじめ"に関わった人達が死んだってことじゃない? だから、今度は自分かも知れないって思ってるんじゃないかな。ま、いい気味なんだけど」
 ふん、と前席の女子は鼻で笑って、ちらりと茜を一瞥する。それに釣られて、亜樹も気づかれないように噂の彼女を見た。
 確かに蒼褪めている――遠くに居るために分かりにくいものの、微かな震えも亜樹には見て取れた。目はキョロキョロと動いて辺りを伺っている。
 その時だった。
 ブウゥゥウウウン――……。
 何か羽音のような音が教室中に響いた。
 悲鳴をあげる声が聞こえる。――いつの間にか席から立ち上がっていた、城崎茜だった。
「椎名っ! 出てきなさいよ! あ、あんたの仕業だって知ってるんだからっ!」
 目には涙を浮かべ、いつも人を馬鹿にしては愉しんでいた茜も、その表情には余裕がなく鬼気迫るものを感じさせる。狂ったように唾を飛ばしながら、大声で怒鳴り散らしていた。
 ブウゥゥウウウン――……。
 同じ音がまた響いた。クラスの生徒全員の視線が一点に集中した。
 テレビである。
 ブラウン管が起動した音だったのだろう。ゆっくりと真っ暗な画面は色彩付き、次第に鮮やかに"何か"が映し出されていった。

 ――いやあああああぁあっ!
 鼓膜を破るような甲高い声が、テレビのスピーカーから聞こえる。映し出されていたのは、屋台、「焼きそば」の看板、提灯の光……それは賑やかな夏祭りの光景。それが段々と消え行き、藪の中へと場面は変わっていく。
 ――やめて! おねがい!
 亜樹はハッとした。これは、まさしく由美の声だった。
 ガサガサッという雑音と、誰かの喋っている小さな声が聞こえ、視点は急に上を向き始めた。満月が鮮やかに映っている。そして満月を突如隠すように、ぬっと画面一杯に映った顔。
 山之辺――山野辺卓弥の顔だった。亜樹は心臓が浮いた感覚を覚える。そしてゆっくりと吐気が込み上げてきた。そこに、クラスメイトの男子の表情は無かった。
 まさに、獣だった。下劣な笑みを画面を通して、亜樹達に見せつけた。
「これ、由美の……」
 またも由美の甲高い悲鳴が、教室内に響く。画面には上下に揺れている男の肉。亜樹の前の女子は手で耳を塞いでいる。テレビに映った映像がどういうことであるか、誰もが理解した。
 由美が暴行を受けていたという事実。このテレビの視点は由美の視点なのだ。
 山之辺の身体から覗く隙間に――浴衣姿の彼女がいた。城崎茜が。
 彼女もまた、およそ人間ではないような形相を見せていた。顔の形が崩れるまでに高笑いをし、軽蔑の視線を"由美の視点"に向ける。
「やめなさいよっ! やめてっ! やめてええええっ!」
 絹を裂くような怒声。ヒステリックを起こしているようで、最早理性の欠片も感じられない茜は、何かから逃げるようにして教室を出て行った。

 屋上。大きく肩を揺らして呼吸をしているのは、茜だった。
 顔は鼻水と涙と涎でくしゃくしゃに汚れ、屋上の手すりにしがみつく様にして脱力していた。
 最初はただの憂さ晴らしだった。中学校受験、高校受験と親の言うがままに動いてきた、そして理想の優等生を演じることへの、怒りと憎しみの掃け所だった。それが"あんなこと"に行き着くとは、思っても見なかった。
 初めて、あの事に対する後悔が茜の中で生まれた。

 ――城崎さん。

 気のせいではない。確かに響いた由美の声。
「やめて……!」茜は目を瞑った。

 ――城崎さん。

「どこにいるの! 椎名!」
 茜は首を大きく振って、辺りを見回す。しかし、屋上には茜のほかに誰もいなかった。

 ――ここよ、城崎さん。

 茜は血の気が引いた。それは、由美の声が"外から聞こえているのではない"ということに気がついたからであった。
「椎名……もしかして……」
 茜は腹を撫でる。眼球が飛び出そうなほどに目を見開き、"その事実"に驚愕する。

 ――そう、ここよ。城崎さん。

 茜の下腹は気づかないうちに、まるで妊婦のように大きくなっている。
「そんな……っ! 椎名、ごめん……! もう許してっ! 許してえぇっ!」
 茜は泣きじゃくりながら自らの腹に許しを請う。自らの子宮に異物が入っていると知ったからであろうか、徐々に下腹が熱くなっていくように感じる。自分の中に入っているのは、果たして本当にあの物静かな由美なのだろうか。茜は、混乱の極みに至った。

 
 ――城崎さんの胎内、アッタカイワ。

 まるで酩酊状態であるかのように、茜の視界がぐらぐらと揺れる。そして、急激に襲い来る吐気を堪えることもせずに、そのまま嘔吐し、胃液と共に吐瀉物をタイルにぶつけた。
 汚れた口元を拭き取りもせず、茜は手すりにしな垂れかかる。その視界には、曇りも消えた真っ青な青空――。
 彼女の取るべき行動は、一つしか無かった。




 あの日から五日が過ぎた。もう何も起こっていない。城崎茜の屋上からの転落死を以て、怪事件には一区切りがついたようだった。
 亜樹はバスタオルで濡れた髪を拭いていた。パジャマの肌触りが心地良く、ソファに座っているだけで眠ってしまいそうになる。亜樹にとって、あの事件は決して忘れることの出来ないものである。いや、忘れてはならないのだ。亜樹が思うに、由美への加害者はクラス全員なのだから。傍観者も加害者も、実質的には何も変わらない。被害者を孤立に追いやって、最終的に自殺させてしまうのだ。
 亜樹の携帯電話が不意になった。
「もしもし」
「もしもし、岸谷さん」
 声の主はすぐに判断がついた。亜樹は胸に手を当てて心を落ち着ける。「どうしたの? ――椎名さん」
「あのね、岸谷さんには聞いてもらいたいの。岸谷さんは、私の……」
 電話の向こうで唾を飲み込む音が聞こえた。
「私の、初めての友達だから」
 友達と言っても、ただ保健室に通う生徒同士であっただけである。しかし、それでも由美には新鮮だったし、嬉しかったのだろう。初めて聞いた嬉々とした声だった。
「椎名さん」
「何?」
「今回のこと、後悔しない?」
「しない」
 由美の声は強かった。そう言われた以上は、亜樹も何も言えない。恐怖は不思議と感じなかった。言いたいことや聞きたいことが沢山、亜樹の喉元に滞っているが、何を言っていいかわからない。ただ、押し黙るばかりだった。
「岸谷さん、あの時私は何を選べば良かったんだろう」
「え?」
「先生に言ったら、きっと一日だけの指導で終わっちゃう。そしたら、もっと酷い事されると思った。お父さんやお母さんに言ったら、なんだか心配かけさせるだけで、迷惑なんじゃないかと思った。けど、私が何かしなかったらきっと、あの連中は好き放題して、さっさと私のことなんか忘れちゃう。だから――」
 そう語ると、由美は急に静かになった。亜樹は心配そうに電話を握る。
「椎名さん?」
「……じゃあね、二年間ありがとう」
 電話は一方的にプツッと切れる。亜樹は軽く息を吐くと、携帯電話の画面を見た。
 何ということだろう。亜樹は小さく笑う。笑うしかなかった。
「電源……入ってないや」
 折りたたみの携帯をパタンと閉じて、パジャマ姿の少女はソファに横になった。鈴虫は変わらず鳴き続けているものの、夏の終わりはすぐそこにあった。



――了――




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